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愛され続ける「崎陽軒のシウマイ」、社長が悩んだ時にはっとさせられた言葉
日に2万個以上を売り上げる駅弁「シウマイ弁当」や「昔ながらのシウマイ」で知られる崎陽軒。いずれも横浜名物としての不動の地位を誇る人気商品だ。近年は婚礼事業にも進出。さらには日本人の味覚にあった新たな中華菓子を開発するなど、新境地を切り拓いている。時代が変化する中で、百年企業として成長を遂げてきた背景には、徹底したローカル戦略があった。
1908年、横浜駅構内の食料・雑貨の売店として創業した崎陽軒だが、意外にも創業当初、シウマイを扱っていなかった。駅弁は販売していたものの、当時の東海道線の下り路線は、始発の東京駅で駅弁を購入する乗客が多く、横浜駅での販売は芳しくなかった。
横浜は幕末に開港した先進的な都市でありながらも東京への通過点に過ぎず、街を代表する名産品が存在しないことも悩みのタネだった。
「名物がないなら作ればいい」。初代社長である野並茂吉氏が目をつけたのが、港町で中華街を擁する横浜らしさを象徴するシウマイだった。
ところが、シウマイを弁当として販売する上で致命的な課題が立ちはだかる。冷めると美味しさが損なわれてしまうのだ。そこで地元中華街の点心職人をスカウトし、試行錯誤の末に完成したのが、具材の豚肉にホタテの貝柱を加えた「冷めてもおいしいシウマイ」。その製法は、いまなお受け継がれている。
苦労の末に作り上げたシウマイだが、発売当初の売れ行きは芳しくなかった。全国的にその名を知らしめることになったのは、商品PRのために導入した「シウマイ娘」。
赤いチャイナドレス風の制服に身を包んだ販売員は話題を呼び、当時、毎日新聞で連載されていた獅子文六の小説「やっさもっさ」にも登場。この小説は松竹によって映画化され、シウマイ娘には桂木洋子、相手役には佐田啓二という当時のスターによる共演も話題を集めた。
茂吉氏の孫であり3代目となる現社長の野並直文氏は慶応義塾大学卒業後、崎陽軒に入社。最初に任されたのは、弁当のご飯を炊く「シャリ屋」と称される係だったという。「シウマイの味を引き立てるのはおいしいご飯があってこそ。あれはいい経験だった」(野並社長)。その後、慶応大学大学院で経営の学びを深め、レストラン経営などの現場経験をさらに積んだ。
社長就任を前に、先代社長である父・豊氏から大きな選択を迫られる。「全国展開すべきか、ローカル路線でいくか」。悩む直文氏の背中を押したひとつが、当時、大分県知事として「一村一品運動」を提唱していた平松守彦氏の言葉。「真にローカルなるものがインターナショナルになりうる」。「この言葉にはっとさせられた」(直文氏)と述懐する。
以来、横浜を中心とする地域密着型企業としての経営姿勢を鮮明にする。シウマイの全国販売から段階的に撤退し、地元でしか販売しない戦略に舵を切る。結果として「ご当地感」が商品ブランドを高め、販売増につながった。直文氏は「これぞ商売の醍醐味」と語る。
伝統を守るだけではなく、新たな市場創出にも挑む。新業態やスイーツへの挑戦によるミドル層の顧客開拓の取り組みはその一環だ。例えば中国菓子の一種である月餅は、サイズが大きく油分も多いため、日本人の味覚に合わない面もある。
そこで日本人が食べやすいよう、外側の皮をラードではなくバター風味に、中身のあんも和風にアレンジ。サイズも小さく手軽に食べられる崎陽軒流の月餅を開発した。売れ行きは好調で手応えを感じている。
地域密着に重きを置く経営姿勢は、組織運営においても貫かれている。横浜市都筑区と東京・江東区にある工場は「パートさんが通いやすいように」(野並社長)と地の利に配慮。柔軟な勤務体系も導入し、長く働ける職場環境づくりに心を砕く。
「名物がなければ作ればいい」-。その挑戦精神と徹底したローカル戦略は、疲弊する地域経済の中で何とか次の一手を打ち出そうと模索する全国の企業に、何らかの示唆を与える経営姿勢といえるだろう。
METI Journal
常連客が大幅減"大戸屋ランチ廃止"の衝撃
■バイトテロが引き金になった
定食チェーン「大戸屋ごはん処」の客離れが深刻だ。運営会社の大戸屋ホールディングスが6月10日に発表した5月の既存店客数は、前年同月比6.4%減だった。4月が8.0%減、3月が10.8%減、2月が6.4%減と4カ月連続で6%を超える大幅なマイナスとなった。
今年1月までですでに10カ月連続のマイナスとなってはいたが、この4カ月のマイナス幅は非常に深刻だ。2019年3月期上期(18年4~9月)が前年同期比2.7%減だったことを考えると、その異様さがわかるだろう。
この4カ月間における客離れの主因は、「バイトテロ」と「値上げ」だ。
深刻な客離れの始まった2月は、バイトテロが表面化したタイミングだ。アルバイトが配膳用のトレーで裸の下半身を覆う様子を映した動画が拡散し、多くのメディアに取り上げられた。表面化したのが2月中旬だったため、この月は6.4%減で済んでいるが、翌3月は10.8%減と大幅なマイナスとなっている。イメージが悪化し、客足が遠のいた結果と考えるのが自然だろう。
■定食メニュー12品目を10~70円値上げ
これを受けて大戸屋は2月16日に謝罪。3月12日には国内全350店の大半を休業し、再発防止に向けた従業員教育と店内清掃を実施した。この対応は評価できるものだったが、それでも完全な信頼回復には至らなかった。
なお、客数減にはこの休業要因もあるため、同社は休業日を除外して前年と同じ営業日数で比較した場合の増減率を算出している。ただ、その場合でも客数は8.5%減になっており、いずれにせよバイトテロが深刻な客離れを招いたことは間違いない。
そして、さらなる客離れを招いたのが「値上げ」だ。大戸屋は今年4月23日、定食メニューのうち12品目を10~70円値上げしている。値上げ幅の大きかった「しまほっけの炭火焼き定食」は970円(以下すべて税込み)から70円引き上げて1040円に。そのほか、「ロースかつ定食」は910円から40円上げて950円に、「バジルチキンサラダ定食」は900円から20円上げて920円に変更している。
■竜田揚げが肉団子になって150円高くなった
安価で人気があった定番商品「大戸屋ランチ」(720円)がなくなったのも大きい。「大戸屋ランチ」は、竜田揚げ、かぼちゃコロッケ、目玉焼き、サラダ、ご飯、みそ汁、お新香がセットになった定食だが、今年4月の値上げのタイミングにメニューから消えたのだ。これで「ランチ」と名の付く商品はなくなってしまった。
その代わりとしてか、似たような定食として「大戸屋おうちごはん定食」(870円)が新たに加わった。使われている食材は「大戸屋ランチ」とほぼ同じだが、竜田揚げではなく肉団子になっている。食材の面ではこれ以外の大きな違いはない。
大きく異なるのが価格で、「大戸屋おうちごはん定食」は「大戸屋ランチ」より150円高い。内容が異なるので値上げとは言い切れないが、利用者に「高くなった」という印象を与えたことは否めないだろう。
値上げにより客単価は上昇したが、4月の客数が8.0%減、翌5月が6.4%減とどちらも大幅マイナスとなり、既存店売上高は4月が5.0%減、5月が2.7%減と低迷した。値上げで補うことができないほど、客数が減ってしまったわけだ。
■かつての主要価格帯は600円台だった
バイトテロは突発的な出来事のため、この影響はいずれなくなるだろうが、値上げによる価格帯の上昇は今後の集客に恒常的に影響するといえる。
大戸屋の業績は厳しい状況にある。19年3月期の連結決算(5月13日発表)は、売上高が前期比2.0%減の257億円、本業のもうけを示す営業利益は34.7%減の4億1400万円と減収減益となった。店舗数が伸び悩んだほか、既存店の不振が響いた。最終的なもうけを示す純利益は、販売不振などから国内直営店の減損損失2億8300万円を計上したことが影響し、73.0%減の5500万円と大きく落ち込んだ。
かつて大戸屋の主要価格帯は600円台だった。庶民的な定食屋のイメージが強かったが、段階的に価格帯が引き上げられ、いつの間にか高級定食店に変貌してしまった。現在、グランドメニューの定食はほとんどが800円台と900円台に設定されている。800円未満のものは、そば、うどんといった単品商品だけだ。外食チェーンの中では高額の部類に入るだろう。
■「やよい軒」に店舗数も出店ペースも劣る
大戸屋の価格の高さは、出店できる立地が限られるという問題を内包している。都市部であれば同程度の価格帯の飲食店がたくさんあるため、大戸屋が特段に高いとは感じられない。しかし地方はそうではなく、価格の高さが際立つことになる。そのため、収益を上げられる場所は限られる。大戸屋の国内店舗数がここ数年350店程度の横ばいなのはこの理由が大きいだろう。
これは同業の「やよい軒」と比較すると分かりやすい。やよい軒は定食メニューの大半が800円未満とお手頃だ。「しょうが焼定食」や「サバの塩焼定食」といった定番商品は630円と、圧倒的に安い。この価格帯であれば地方でも十分戦える。そのため、出店余地は大戸屋よりも広い。
事実、やよい軒の店舗数は大きく伸びている。5月末時点の国内店舗数は380店で、1年前から24店増えた。現在の店舗数は大戸屋を上回り、近年の出店ペースもやよい軒のほうが上だ。
■コスト高に値上げで対応するしかなくなっている
大戸屋は出店余地が限られているため、出店攻勢がかけられず「規模のメリット」を発揮できずにいる。店舗数が増えれば、規模のメリットでコストの割合が低下し、利益が生じやすくなる。そこで生じた利益を、商品価格を据え置くための原資に利用できるのだ。
大戸屋の収益性の悪化の一因はここにある。昨今のコスト高に対し、値上げで対応せざるをえなくなっているのだ。価格帯が高くなれば、出店余地はさらに狭まる。店舗数を増やせなければ、規模のメリットはますます発揮できなくなる。大戸屋はこうした悪循環に陥っているのだ。
一方、やよい軒の収益性は大戸屋ほど悪くはない。運営会社のプレナスが、持ち帰り弁当店「ほっともっと」を国内に2700店超を展開していることも大きい。グループで規模のメリットを発揮できているのだろう。
佐藤 昌司(さとう・まさし)
店舗経営コンサルタント
立教大学社会学部卒業。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。店舗型ビジネスの専門家として、集客・売り上げ拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供している。
■新業態展開するも大戸屋とカブり気味
大戸屋はやよい軒のようにほかの事業の力を借りることができない。大戸屋HDでは「大戸屋ごはん処」以外の事業がまったく育っていないためだ。そのため今後もコスト高が続くようであれば、さらなる値上げをせざるをえないだろう。そうなれば、さらなる客離れが生じかねない。成長を図るには、大戸屋ごはん処以外の事業を早急に育てる必要がある。
もちろん同社は手をこまぬいているわけではない。昨年、新業態の定食店「食べ処三かみ」や「かこみ食卓」を立ち上げた。だが、どちらもメニューの大半は900~1000円台で、大戸屋とバッティングする部分が多い。その点は気がかりだ。大戸屋が飽和状態にあるなか、似たような新業態の出店余地は限定的ではないか。方向性の異なる業態を別に確立する必要があるだろう。
■「海外200店」の目標も取り下げた
海外事業のテコ入れも喫緊の課題だ。海外では東南アジアを中心に110店(3月末時点)を展開しているが、この数字は当初の目標より遅れている。20年3月期を期限とする中期経営計画(16年11月発表)では、今期に「海外200店」に向けた体制を整備するとしていた。しかし、出店が思うようにいかず、この目標は昨年5月に取り下げている。今期の海外店舗の純増数はわずか16店にとどまる見込みで、200店ははるか遠い。国内で苦戦していることもあり、遠くない将来に達成したいところだ。
チェーン店はその構造上、規模のメリットを追求することが宿命づけられている。今の大戸屋は、その点が特に問われているのではないだろうか。大局的な観点で戦略を練り、そこを追求していく必要があるだろう。
※編集部註:初出時、「しまほっけの炭火焼き定食」の写真とキャプションが間違っていました。訂正します。(6月21日12時44分追記)
いきなりステーキが、おもいっきり減速
ちょっと前まで、株価10倍、ブームの牽引役などとチヤホヤされていた「いきなり!ステーキ」(運営:ペッパーフードサービス)がうって変わってヤバいだなんだと叩かれている。
2018年12月期決算(連結)は、売上高635億900万円(前期比75.3%増)に対して、最終利益はマイナス1億2100万円と8年ぶりに赤字となったからだ。
低迷の原因として挙げられるのは、ステーキの本場でも手軽に食べられる業態を定着させたいと意気込んで進出した米国事業。ニューヨークで11店舗していて、そのうち7店舗を閉店することにともなって、12億円近い特別損失の計上が響いたという。
また、パク……ではなく、似たようなコンセプトの店が雨後のタケノコのようにわいて出て、血で血を洗うレッドオーシャンになったことが原因だという指摘も多い。確かに、「ステーキ屋松」(松屋フーズ)、「やっぱりステーキ」(やっぱりグループ)、「アッ!そうだステーキ」(チムニー)、「カミナリステーキ」(モンテローザ)など、大喜利のようなノリでネーミングされた競合店が乱立しているのだ。
これらが低迷を招いたのは間違いないだろう。が、個人的にはもうひとつ致命的な敗因があったのではと感じている。それは「店の出しすぎ」だ。具体的には、これまで数多くの外食チェーンを撃沈させてきた「500店舗の壁」にぶちあたったのだ。
●「ほにゃららステーキ」が参入
ご存じのように、日本はすさまじい勢いで人口が減少している。が、営利企業のかじ取りをしている人たちの頭の中は全く逆の世界観で、「ビジネスとは右肩上がりで成長しなくてはならぬ」という強烈な思い込みがある。
そうなるとどこかのタイミングで、来期は今期より成長、店舗数も増えて当たり前という企業の理想と、人口減少という現実がかみ合わなくなってくる。日本全国津々浦々で展開しているコンビニやファミレス、ファストフード以外の独立系外食チェーンの場合、その破たんポイントがだいたい「全国500店舗」前後に訪れるのだ。
「いきなり!ステーキ」は、その典型的なケースである可能性が高い。
19年5月末日現在、「いきなり!ステーキ」の店舗数は463(国内459、海外4)。18年6月末時点の店舗数は276で、「年間200店舗の新規出店」という目標を掲げていたことを思えば、「計画通り」だが、この計画が裏目に出たかもしれないのだ。
「ホットペーパーグルメ外食総研」が首都圏、関西圏、東海圏の男女約1万人を対象とした調査では、2019年4月の「焼肉、ステーキ、ハンバーグ等の専業店」の市場規模は前年比+15億の356億円だが、これは右肩上がりで成長をしているわけではなく、300億規模で増減を繰り返している(市場規模:各圏域の延べ外食回数×各圏域における業態シェア×各業態の単価で算出)。
市場規模はそれほど顕著に増えていない。にもかかわらず、1年で200店舗も増やして、その勢いにあおられてパク……ではなく、「ほにゃららステーキ」のような類似コンセプトの後発組が続々参入すれば、壮絶なイス取りゲームが進行するだけでなく、「なんか最近ステーキ屋多くない?」という消費者心理が働き、「手軽な価格の立ち食いステーキ」に対する新鮮味が薄れ、ブランド力も低下する。これが全国500店舗規模まで成長した飲食チェーンが、「客離れ」に直面するメカニズムである。
●「いきなり!ステーキ」減速と同じ構造
そんなのは強引なこじつけだと思うかもしれないが、同様の「客離れ」パターンに陥った外食チェーンは他にも存在している。
例えば、居酒屋チェーン「鳥貴族」。数年前まで全商品280円という安さから「せんべろ居酒屋」(1000円でベロベロになる飲める)の代名詞としてメディアに持ち上げられてきたが、19年7月期の単独最終損益は3億5600万円の赤字と撃沈。14年の上場以来初めて通期での最終赤字となった。
一般的に、この低迷は「値上げ」が悪いとされているが、鳥貴族自身が「既存店の近隣に追加出店した店舗での自社競合が発生」(2019年7月期 第3四半期決算短信)と分析しているように、「店の出しすぎ」も一因である。
飛ぶ鳥を落とす勢いだった15年、「2021年までに1000店舗を目指す」と宣言し、次々と店舗網を拡大。19年6月時点での店舗数はなんと660にまでなったのだが、その拡大路線に触発されたかのように、「やきとりセンター」「三代目鳥メロ」「ジャンポ焼鳥 鳥二郎」など次々とパク……ではなく、模倣店が生まれたのだ。
もうお分かりだろう、ブームの牽引役と持ち上げられたプレイヤーが、増えすぎた店舗と模倣店によって、かつての輝きを失っていくという意味では、「いきなり!ステーキ」の減速とまったく同じ構造なのだ。
6月8日から開催されている20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議のレセプションで、振る舞われた食品の中で注目された「100%とんこつ不使用ラーメン」。
大阪の店舗では、外国人観光客が長蛇の列をつくり、福岡本店は今や団体観光客が訪れる有名観光地になっている人気店なので、当然これからすごい勢いで店舗展開をしていくのでは? そんな風に尋ねたところ、社長は意外なことをおっしゃった。
「国内は出しても150店舗くらいですね」
また、全席禁煙にしたことで、愛煙家から「そんなバカなことをしたら店が潰れる」と散々脅されながらも、プラス成長を維持している「串カツ田中」は鳥貴族同様に「1000店舗」を目標として掲げているものの、現状は221店舗(19年4月の決算説明資料より)と「鳥貴族」や「いきなり!ステーキ」ほどの出店ペースではない。
●原因は「無謀な計画」
つまり、好調な飲食チェーンというのは往々にして、「1年に200店舗の新規出店」なんて感じで急速な拡大路線を歩まず、数年かけて着実に出店しているパターンが多いということだ。
そう考えていくと、ブームの牽引役として一世風靡(いっせいふうび)をした飲食チェーンが、イケイケドンドンで突き進んで店舗数が400、500という規模感になったあたりで失速するのも納得ではないか。
ステーキブーム、せんべろブーム、黒タピオカブーム、パンケーキブーム……日本の外食は勢いが減速すると、「値上げ」が悪いとか、消費者がトレンドに飽きた、などと分析されることが多い。もちろん、それが正しい場合もあるが、そういう複雑な話ではなくごくごくシンプルに、市場が「飽和状態」になっているケースも多いのだ。
あれが悪い、これが悪い、と周囲のせいにする前に、まずは自分たちが進めている「無謀な計画」にこそ原因があるのではないか、という視点も必要なのではないだろうか。
(窪田順生)
のり弁の秘密
お弁当屋さんの定番といえば、「のり弁当」。他のお弁当に比べて見た目はチープではありますが、長い人気を誇る商品となっていますよね。今回の無料メルマガ『繁盛戦略企画塾・『心のマーケティング』講座』では著者で人気コンサルタントの佐藤きよあきさんが、安さだけにとどまらない「のり弁当」の人気の秘密について考察しています。
“ほか弁屋”の「のり弁当」は、なぜ売れ続けているのか?
庶民なら一度は食べたことがあるであろう、ほか弁屋さんの「のり弁当」。
ご飯の上に、昆布の佃煮もしくは醤油和えのかつお節をのせ、焼き海苔をかぶせた本体。その上に、白身魚のフライと竹輪の天ぷら、きんぴらがのり、さくら漬けか大根の甘酢漬けが添えられています。
見ためにはチープですが、間違いのない安定した美味しさがあり、長年に渡る人気商品です。「ほっかほっか亭」「ほっともっと」「かまどや」などのチェーン店では、300~340円程度で販売されています。
「のり弁当」が一番よく売れるというお店も多いのです。不況の中では、この安さも人気の要因ではありますが、それだけではありません。
「すごく美味しい」「めっちゃ旨い」という存在ではありませんが、心にほのかな明かりが灯るような、温かな味がします。
特別なものは何も入っていません。
安い素材ですが、もっとも美味しい調理法を選んでいます。淡白な白身魚は、フライにすることで脂の旨味を足しています。竹輪はそのままでは“おかず”になりにくいものですが、天ぷらにすることで、練り物のコクを引き出しています。ごぼうと人参のきんぴらは、和総菜の定番です。
このお弁当のもっとも美味しいところは、昆布もしくはかつお節と海苔とご飯の組み合わせです。白ご飯に合うものの王道として、昔から親しまれてきた味なのです。安っぽいと感じる人もいるでしょうが、庶民ならどこか懐かしく、ガツガツと食べてしまうほど、美味しいはずです。
ほか弁屋の人は言います。
「お金のない人にも、しっかりと食べてもらいたいから、安い価格で提供している」
これがほか弁屋さんの原点であるがゆえに、いまだ安く提供しているのです。
この信条は、どこか母親に通ずるものがあります。お金もなく、決して料理上手とも言えない母親が、子どもの成長を願い、不器用ながらも一所懸命に作ってくれたお弁当に似ています。
アルマイトの弁当箱に、ギュウギュウに詰められたご飯。白ご飯では寂しいから、昆布や海苔をのせる。少ないおかずを豪華に見せるために、ご飯の上に並べる。腹を空かせた子どもには、なによりのごちそうです。
「のり弁当」には、そんな郷愁があります。母親の愛情のようなものを感じるから、美味しいのです。
image by: MAG2 NEWS
MAG2 NEWS
200店舗閉店の「サブウェイ」と好調な「サイゼリヤ」、なにが違う?
◆外食チェーンは「冬の時代」。土俵際での生き残り戦術とは?
今年1月、サンドイッチ全国チェーン店「サブウェイ」のフランチャイズ(FC)店を運営する、エージー・コーポレーションの倒産が報じられた。するとそれを契機に、実は過去4年半で全国のサブウェイで約200店舗もの閉店ラッシュが起きていたことも明るみに出、ネットは一時騒然となった。飲食業界の動向に詳しい経済評論家の平野和之氏が解説する。
「サブウェイの場合、どうしても朝・昼に特化して夕食以降のニーズが見込めなかったり、ファストフードにしては中途半端に高かったりと問題点はいくつか推察できますが、そもそも飲食産業自体の市場規模が社会の高齢化などと比例して右肩下がりの状態。
このご時世では、チェーン展開を成功させるには“好立地”“毎日食べることができるか”“簡単なオペレーティング”の3点が必須です。
うまければ残る、まずければつぶれる、という単純な話ではなく、どの外食チェーンに対しても『よくもっているな』というのが率直な感想ですね」
フードアクティビィストの松浦達也氏も、外食チェーンはいまや完全なる受難の時代だ、と語る。
「日本の消費者は『コスパ』に対して過剰なほどシビア。上から目線の客に右往左往している日本の飲食市場は、完全なレッドオーシャンです。店側にとっては、労働力の確保、サービスレベルの保持など難題だらけなのに、一部客の過剰な要求が常態化してしまっています」
そんな状況下で体力が尽き果てた店もあるなか、いまなお戦い続ける飲食チェーンには、生き残りに対して非常に高いビジョンが求められている。
「例えば好調を維持する『サイゼリヤ』は、安くあげたい人には廉価メニューを充実させる一方で、『上質なオリーブオイル使い放題』『一部店舗での高級ワイン提供』など、訪店動機の異なる顧客層にそれぞれ訴求できるサービスを充実させている。集客をしながら、客単価を上げる工夫を同時に行っています。
ほかにも硬質プラスチックのグラス導入でロスを減らすなど、さまざまな面で営業努力をしている。難しいことではありますが、こうした営業努力、考え続ける姿勢が客を呼ぶのだと思います」(松浦氏)
<主な絶滅危惧チェーン店>
●サンテオレ ’95年3月に100店舗突破→現在8店舗
●東京チカラめし ’12年には100店舗突破→現在8店舗
●ドムドムハンバーガー ’90年ごろ400店舗達成→現在31店舗
●アンナミラーズ ’90年ごろ最大20店舗→現在1店舗
<主な絶滅したチェーン店>
●イエスタデイ すかいらーく系列ファミレスで’90年代に閉店
●すかいらーく 39年の歴史に幕を閉じガストに転換
●コロちゃんのコロッケ屋! ’00年ごろ急激に拡大→自己破産
●神戸らんぷ亭 ’93年設立→’15年に筆頭株主が代わり閉店
●びっくりラーメン一番 1杯189円で大ヒット→民事再生法の適用を申請
●牛丼太郎 ’12年に全店舗営業終了→1店舗が「丼太郎」に
【平野和之氏】
経済評論家。大学卒業後、流通業にて投資を行い、起業。’06年から経済評論家として講演・執筆活動を開始。『コンビニがなくなる日 どうなる?流通最終戦争』(主婦の友社刊)など著書多数
【松浦達也氏】
フードアクティビスト。食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで、「調理の仕組みと科学」「食文化」「食から見た地方論」など幅広く執筆、編集を行う。著書に『新しい卵ドリル』(マガジンハウス刊)など多数
― [絶滅危惧チェーン店]のいま ―
ライバルと明暗 栄華を誇った「小僧寿し」だけが大きく苦戦した理由
2016年5月に同業者である「茶月」の買収を完了し、両チェーンで合わせて直営110店、フランチャイズ(FC)133店の計243店を展開中(18年9月30日現在)。全盛期からは8分の1程度以下とずいぶんと減ったとはいえ、外食・中食の専門店で、100店を超えるところはそう多くなく、今でも大手の一角を占めている。
いつの間にか高級になったすしを庶民の味に
江戸時代には、銭湯帰りに庶民がちょっと軽くつまむ屋台の味だった握りずしは、いつの間にか日本の伝統芸となった。すし職人が「高所得者」「美食家」としてまつり上げられ、一食数千円以上、1万円以上も当たり前という、特別なお祝い事で使うような高級店へと変質した。そういった「すしは高級食」という常識に「ノー」を突きつけ、昭和の高度成長期から平成初期にかけて、全国で低価格なすしを売りまくったのが小僧寿しだった。
かつては外食産業のトップに君臨した
小僧寿しの前身は、1920年に創業した大阪府堺市のすし屋「鮨桝」だ。3男として生まれた山木益次氏は、材木問屋の丁稚をしながら夜間高校に通った後、セールスマン、調理見習い、ナイトクラブのボーイなどを経て、1961年に家業を手伝うようになり、翌62年に支店を任された。しかし、営業不振に陥り、試行錯誤の末、64年に持ち帰りずし店に転換。これが当たって65年に株式会社化した。この会社が小僧寿しの原型となった。社名にある“小僧”の意味
86年に大阪府吹田市に本社を移転。89年には店舗数が2300店を超え、93年には年商が1056億円となり、94年に株式上場を果たす。この頃が小僧寿しの絶頂期であった。
小僧寿しを脅かした回転すしチェーン
2000年代に入って、回転すしチェーンの急成長により、低価格なすしのエンターテインメント化が進み、次第に小僧寿しは窮地に立たされる。
失敗した巻き返し策
山木氏は04年10月に上梓した『強さと弱さ 小僧寿しチェーンの秘密』(星雲社)で、1991年には徒歩や自転車で3分以内からの来店客数が全体の33%だったのに対して、03年には72%に急増。一方で、車で5分以上かかる場所からの来店客数が、33%から6%に激減していると言及。商圏の縮小が店の売り上げ減につながっているとした。そして、宅配によって商圏を拡大して攻めること、小商圏に細かくドミナント出店して接客技術の向上によりファンを増やすことを解決策に挙げていた。
宅配すしの成長も脅威に
イオンといったショッピングセンターの売り上げは、スーパー部門の伸び悩みを好調な専門店がカバーしている構造になっており、顧客は同じ建物内にあっても、スーパーと専門店を明確に使い分けている。小僧寿しが顧客の行動、心理を読み誤り、ショッピングセンターを攻めなかったので、ちよだ鮨と京樽が代わって入り込んだ。そして、スーパーの鮮魚コーナーもすしを提供するようになって小僧寿しの脅威となってしまっている。持ち帰りずしのライバルは伸長
小僧寿しは06年にすかいらーくに買収され、さらに12年にはコンサンティング会社のイコールパートナーズ(東京都千代田区)に買収された。14年にイコールが株式の一部を放出して、関連会社から外れた。この間、宅配すし「札幌海鮮丸」や回転すし「活鮮」などを展開したり、小僧寿しの価格を下げてCMを大量に流したりしたがあまり効果なく、かえって赤字が拡大。事業継続のため、これらの新業態を売却せざるを得なくなった。
なにがいけなかったのか
こうして京樽やちよだ鮨の動向を見ると、この頃までに展開していた低価格なすしに特化する多業種化戦略は間違ってはいなかった。しかし、14年からラーメン「麺や小僧」を展開したり、宅配ピザのシカゴピザと提携してすしとピザと丼の複合テークアウト店を新しく始めたりしたが、ことごとく失敗し、混迷を深めている。ITmedia ビジネスオンライン
大戸屋からじわりとお客が離れている理由 自らのクビを絞める「手作りの味」
営業利益は直近5年で最低額を更新
定食店チェーン「大戸屋ごはん処」を運営する大戸屋ホールディングスの“儲ける力”が弱まっている。
2月9日に発表された2018年3月期第3四半期(17年4~12月)の連結決算は、純利益が前年同期比64.7%減の6800万円となった。売上高は前年同期比2.8%増の197億円、営業利益は19.3%減の4億900万円だった。
純利益の大幅な減少には、実質的な創業者である三森久実氏(15年7月逝去)に対して、創業者功労金2億円を支払ったことが大きく影響している。したがってこれは一時的な要素が強く、純利益の減少は致し方ないといえる。
より重要視すべきは、本業の儲けを示す営業利益の減少のほうだろう。第3四半期ベースで、直近5年では最低額となってしまった。売上高に占める営業利益の割合も2.1%と、同期間では同じく最低となっている。食材費や人件費が上昇し、営業利益をむしばんだ。
もっとも多いのは「800円台」のメニュー
こうした状況を受け、大戸屋は通期の業績見通しの下方修正を発表。売上高は前回発表から3.7%少ない260億円(前年比1.5%増)、営業利益は34.9%少ない5億6000万円(前年比21.0%減)とした。
集客力も弱まっている。17年3月期の既存店客数は前年同期比2.4%減だった。16年は3.5%減、15年は1.3%減で、3年連続で前年割れを起こしている。17年4月~18年1月は0.8%減となっており、前年割れは4年連続になる可能性もある。
客離れの背景には、価格の高さがある。現在、大戸屋の定食でもっともメニュー数が多い価格帯は800円台だ。外食チェーンの中では高い部類に属する。同じ定食チェーンの「やよい軒」が700円台であることと比較してみると、大戸屋の高さのほどがわかるだろう。
もちろん、価格に見合ったおいしさがあれば問題はない。大戸屋はセントラルキッチン(複数店舗分の大量の料理をまとめて製造する施設)を持たず、基本的に店内で加工・調理する。手間と時間がかかるが、その分おいしさは増す。そういった点を評価し、現在の価格でも満足している人は当然いる。ただ、客数の減少に鑑みると、そのように捉えている人が減り、「おいしいけれど価格が高い」と考える人が増えているのではないか。
01年頃、大戸屋の定食の主要価格帯は600円台だった。そこから値上げや高価格メニューの投入を順次行った結果、既存店客単価は上昇し続けている。また、近年において1000~1500円の高価格定食を投入したため、「大戸屋は高い」という印象が広まった感は否めない。
セールスポイント「店内調理」がコストを増やす
価格引き上げの要因は、売りの店内調理だ。大戸屋では生野菜にカット野菜を使わず、店で洗って皮をむいて仕込んでいる。魚や肉も、店内で炭火で焼いている。かつお節も店で削っているし、豆腐まで作っている。当然手間と時間がかかり、コスト増の要因となっているのだ。そのコストをカバーするために価格を引き上げざるを得なくなっている。
たとえば1月29日から3月末まで店舗限定で販売する『大戸屋のうな重』は、「契約養殖場で育てたうなぎを、お店で蒸して、たれを塗り、炭火でふっくらと焼き上げました」(同社のプレスリリースより)という渾身の商品だ。価格は1851円(税込1999円)。大戸屋の常連客は、この価格をどう受け止めるだろうか。
また、扱うメニュー数が多いことも、コスト増の要因になっていると考えられる。定番の定食メニューだけで43種類もあるのだ。すべての調理を従業員に習得させるためには、相当の手間とコストがかかるだろう。外食産業全体に人手不足が深刻化するなか、そういった負担が重くのしかかり、“儲ける力”を削いでいる。
さらに、16年に巻き起こった“お家騒動”も影を落としている。久実氏に対する功労金の支払いや息子・智仁氏の処遇をめぐり、創業家と経営陣が対立。久実氏の妻・三枝子氏が遺骨を持って社長室に乗り込んだことが報じられるなど、世間の注目を集めるには十分過ぎるほどの内紛劇だった。結局、功労金を支払うことにはなったが、未解決の点も残っており、完全決着には至っていない。
お家騒動が露見する前までの売上高は右肩上がりで上昇していたが、騒動が尾を引く17年3月期の売上高は減収となってしまった。消費者のイメージダウンに、少なからず影響したと考えられる。
また、従業員の士気を下げる要因にもなっただろう。それにより、提供する料理の味の低下につながっていないとも限らない。人手を多く必要とする店内調理だからこそ、その振れ幅は大きいといえる。
タブレット端末設置でコスト減をはかる
このように、足を引っ張っているのは売りの店内調理だと考えられるが、いまさら最大のセールスポイントをやめるわけにはいかない。店内調理をやめれば、「大戸屋らしさ」はなくなってしまう。店内調理は継続して磨きをかけ、そのほかの部分でコストを抑えて利益の確保と成長を図りたいところだ。
それを体現する店舗として、大戸屋は「新丸の内センタービル店」(東京都千代田区)を17年6月にリニューアルオープンしている。国内店舗では初となるオープンキッチンを採用し、手作業で調理している様子を客席から見えるようにした。手作り感をよりリアルに感じてもらう狙いがある。
その一方で、コスト削減につながる施策も行っている。同店では客席にタブレット型のオーダー端末を設置し、店員を介さずに注文できるようにした。また、セルフレジを導入し、同様に店員を介すことなく会計ができるようにしている。これにより、混雑を緩和できるほか、人員の削減にもつなげられるだろう。
大戸屋はこういった施策を推し進め、早急にコスト削減を図る必要がある。今後も食材費や人件費は上昇していくことが考えられるが、そうなった場合、価格の引き上げで対応するのは危険だ。深刻なレベルで客離れが起きかねない。大戸屋は今、より一層の企業努力が求められているといえる。
佐藤 昌司(さとう・まさし)
店舗経営コンサルタント
立教大学社会学部卒業。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。店舗型ビジネスの専門家として、集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供している。
(店舗経営コンサルタント 佐藤 昌司)(PRESIDENT Online)
64軒を潰した失敗王 とんかつ屋で大成功
成功の絵は、いつも完璧に描けていた
焼肉、すし、居酒屋、ラーメン、お好み焼き……。静岡県三島市を拠点に、これまで80軒以上の飲食店をオープンした。そのうち、64軒を潰してしまった。成功したのは、とんかつ屋だけと言ってもいいかもしれない。そのとんかつ屋も、はじめはパッとしなかった。失敗するのがわかっているのに、なぜ、そんなに店を出すのかと思われるだろう。しかし、失敗すると思って店を出す人なんていない。誰もが成功すると思って、夢を見る。でも、失敗する。飲食店が10年持つのは1割と言われているが、実感に近い。
店を作る楽しさというのは、やった人にしかわからない。こういう空間で、こういう料理を出して、こういう制服で、こういうサービスをすれば、お客さまが喜んでくれる。いい店だ、と確信する。成功が完璧に見えている。でもやっぱり、失敗する。
とんかつ屋は、なぜ成功したのか
とんかつ屋はとくに儲からないものの、安定はしていたので、3軒、4軒と増やした。店では、世の中のスタンダードに合わせて、ごはん、味噌汁、キャベツ、漬物をおかわり自由にしていた。私もときおり、店の応援に立つのだが、あるお客さまは、ごはんをおかわりしたのち、味噌汁をリクエストする。あるお客さまは、漬物ばかりを何度もおかわりし、直後にごはんをオーダーする。一緒に頼んでくれればよいのだが、バラバラに注文される。そういったズレが重なって、店のオペレーションは崩壊する。店でアンケートを取ってみた。「最悪だ!」と書いてある。「なぜ、すぐに持ってこないんだ!」と、怒りの投書が数多くあった。「二度と来ない!」というのもある。こちらはすごいサービスだと思って提供していた。たっぷり原価をかけているのに、この言われようは何だろう。
そこまで言うなら、こちらにも考えがある! ということで、店のカウンターの一部を潰し、そこにごはんと味噌汁、キャベツや漬物をおいて、自分で取りに来てもらうことにした。4品では寂しいので、コーヒーやかんたんなデザートもおいた。すると、不思議なことが起きた。
この店は、最高です! 絶対に、また来ます!
「おかわり自由」をセルフサービスに変えたら、お客さまが「この店は、最高です!」「絶対にまた来ます!」と言い出した。メニューも一緒、味も一緒、料理人も一緒、サービスをしている人も一緒だ。セルフに変えたのだから、むしろサービスは落ちたはずだ。ところがお客さまからの評価は一気に上がった。売り上げは50%増え、利益もバーンと増えた。これには、考えさせられた。「ごはんを食べているまさに今、漬物がほしいんだ!」とか「ひとかけら残っているとんかつで、あと少しごはんを食べたいんだ!」とか、お客さまにしかわからないタイミングがある。漬物やごはんをタイムリーに提供できないことで、「もういらねぇよ!」という大きな不満足を作ってしまっていた。セルフサービスへの変更で、店に充満していた不満足が、すべて消えたかのようだった。
客に叱られてたどりついた「商売の鉄則」
何年か前のクリスマス、小さなクリスマスツリーをプレゼントする企画を考え、広告に載せた。配布を始めると、お客さまが「なんだ、こんなにちっちゃいのかよ!」と怒り出した。「なんだよ、バカにするな!」と言って帰ってしまう方もいた。無料であげているのに……。このときは、落ち込んだ。結局、期待感を高めすぎるとギャップが出てしまう。期待外れだったときのお客さまはとてつもなく厳しい。逆に、あまり期待していなかった店が、予想以上だったときのお客さまの喜びぶりはすごい。「ここいいじゃん!」となって、「好き」のスイッチが入る。
私は、むやみに期待を上げる「バイキング」だとか「食べ放題」だとか、一切言わないことにした。サービス磨きは一所懸命やるが、ひっそりとやるのがいい。派手に宣伝して、期待させたら終わり。自信があるものほど、宣伝しないほうがいい。これが「商売の鉄則」のように思う。
そして今、「1軒だけの実験」という形で、セルフコーナーをひそかにパワーアップさせようとしている。
野菜なら、先にどんどん食べていい
セルフサービスを発展させて、野菜をたっぷりとれるコーナーを実験中だ。「先に野菜を食べれば太りにくい」とよく言われる。しかしエビデンスもなく効果をPRできないから、静岡県立大学に依頼して実証実験をやってもらった。効果ありという独自の研究成果が出た。「先に野菜を食べる」という意味で、このコーナーを「野菜ファースト」と名付けた。野菜ファーストを始めたきっかけは、とんかつをオーダーする前に、セルフコーナーに行って、ごはんをよそい、キャベツを食べ始めるお客さまが増えたことだった。とんかつは要らないんじゃないか、と思うほど勢いよく食べる。ただ、先にセルフコーナーのものを食べることを遠慮しているお客さまも見受けられた。「先に食べたほうがいい」という理屈があれば、控えめな方にも堂々と食べてもらえると思った。
セルフコーナーを充実させたり、野菜ファーストをはじめたりで、女性客がかなり増えた。うちはとんかつ屋で全国一女性のお客さま比率が高いのではないだろうか。確かめる術はないのだが。
大量出店は、今はできない
飲食業というのは、1軒優秀なモデルができたら、それと同じ店を出していけばいい。良い立地に出せれば、さらに成功の確率は高まる。つまり、「1軒目」を当てること、拡大するときの資金がポイントになる。私は新卒で、すかいらーくに入社した。全国に5軒しかなかったときだった。いろいろな経験、勉強をさせてもらい、多店舗展開の理論を少しはわかっているつもりだ。野菜ファーストがうまくいけば、ほかの店舗に展開し、さらに一気に拡大するチャンスも出てくるだろう。しかし、それはかなわない。新たな借り入れができないからだ。今から10年前、2期連続で赤字決算になった。不採算の店舗が増え、返済能力が落ちた。いわゆる「バンクミーティング」が開かれ、メインバンクが他行も集めたところに、私も呼ばれた。
ある銀行の支店長は「社長個人はどう責任を取られるつもりですか?」と私に聞いた。「個人資産は出されますか?」「給料はこのままですか?」と畳み掛けた。そこまで答えなければ、許してもらえなかった。融資の返済を銀行に猶予してもらう代わりに、新規の借り入れは一切できなくなった。しかし、私にはそれよりもつらいことが待っていた。
閉店ラッシュ! これまでのゲームが終わった
バンクミーティングのあと、6店舗を閉めた。箱は持ち物だったので、他社に貸した。毎月50万円以上の赤字を出していた店が、家賃50万円を稼ぎ始めた。「早く閉店しておけばよかったのに」と思われるだろうが、そう簡単ではない。閉店するとパート社員の職を奪うことになる。それに、店は自分の分身みたいなものだ。閉めるたびに涙が出る。閉店は本当に嫌いだ。閉めたあと、その近くに行くことすらできない。銀行対応も含めた財務は、昔も今も実弟の仕事だ。いちばん資金繰りが厳しかったころ、弟は夜も眠れなかったと言う。私は眠れていた。売り上げが上がればいいのだろう、と考えていたからだ。バンクミーティングが開かれ、閉店もして、私はようやく観念した。もうこれまでのゲームは終わったのだと。
そして、新しいゲームが始まった
今期の売り上げは約12億円で、ピーク時の半分以下だ。しかし、ここ3年は最高益、もしくはそのレベルを維持している。このままいけば、負債を返しながら、少しずつ投資も可能だろう。私は、仕事も、人生も、すべてはゲームのようなものだと思っている。銀行から借り入れができないというルール変更は、飲食チェーンのビジネスでは、まったく違うゲームを意味する。だったら、新しいゲームを楽しむしかない。そう割り切っている。私の新しいゲームは、お金をかけずに稼ぐのがルールだ。新規事業として目をつけたのがパクチーだった。パクチーをたくさん食べた翌日、いつもなら妻から「お酒臭い」と言われる量を飲んだにもかかわらず、「まったくお酒臭くない」と言われたことがきっかけだった。調べてみると、パクチーには農薬や肥料、食品添加物に含まれる重金属を、体内から排出する作用があるというではないか。
これもエビデンスがないと効果をPRできないから、大学と共同研究をした。生産は外部委託、売るのもネットだから営業もいない。社員が1人で、半日メンテナンスしている程度だ。思い立ってから8年、年間2000万円の利益を出すようになった。
見た目ピカピカより、中身ピカピカに
かつて、私は上場を目指していた。上場益を社員に還元したかった。有名になって、にしはらグループという名前がピカピカに輝き始め、誇りを持てるだろうと考えていた。しかし、今は会社を筋肉質にして、中身をピカピカにしたいと考えるようになった。社員が「いい会社に入ったな」と思えるようにしたい。人間は追い込まれてはじめて、変身できるのだ。うちは時給が少し高めなので、比較的何とかなっているが、地方の人材不足は深刻だ。もちろん、うちも厳しいには厳しい。これから、さらに人材獲得競争は厳しくなってくるはずだ。時給を一律30円上げたら、年間1000万円以上も人件費が増える。でもやるしかない。そういうゲームが始まったのだから。そして不謹慎かもしれないが、このゲームを楽しみたいと思っている。外食産業としては長い66年目だが、「老舗」と呼ばれる域を目指すのも、また面白そうなゲームだ。
にしはらグループ 代表取締役社長 西原 宏夫
まいどおおきに食堂
「まいどおおきに食堂」のフジオフードシステム、競争激化でタイ合弁清算
2016年10月26日(水) 20時05分(タイ時間)
【タイ】外食チェーンのフジオフードシステム(大阪市北区)は26日、タイの合弁会社MBKフード・システムを清算すると発表した。タイで「まいどおおきに食堂」などの自社ブランドを展開する計画だったが、現地で和食業態の競争が激化したことを受け、清算を決めた。 MBKフード・システムは2013年10月設立。資本金1億909万バーツで、フジオフードシステムのシンガポール子会社が45%、タイでホテル、ショッピングセンターなどを所有運営するMBK傘下の精米会社パトゥム・ライス・ミル・アンド・グラナリー(PRG)が55%出資した。 フジオフードシステムの現在のタイの店舗は「まいどおおきに食堂」とうどん店「つるまる」が各1店の計2店舗。 *ニュースクリップより転載